闇ノ花




それから数分経って、山南さんは手をゆっくりと引く。


──そろそろ時間だ。





「すまない、明里。これから仕事があるんだ」


「あ……待っとくれやす」





明里さんは、山南さんの手が向こうに行ってしまう前に……そっと握った。





「うちと、約束してくれまへんか?」


「……?」





山南さんが不思議そうな顔をすると、明里さんはまた柔和な笑顔を浮かべる。





「うちなぁ、いつか富士山を見てみたいんや」


「富士山……」


「……うちと見てくれまへんか?この簪付けて、あんさんと富士山が見たい……」





そう言い、富士山ってどれくらい大きいんやろな?と、腕を横に広げる明里さん。




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