後輩レンアイ。
それでも手が動かなかったのは、
“一時的に逃げて、それがなにになるっていうんだ”
そんな『保険』がオレをつなぎ止めていたから。
それはもっとも強力な保険で、じわじわとオレを浸食していく。
のばそうと考えていた手は、今や堅く握りしめられている。
(クソ…ッ、オレはずっと、父さんの駒なのか───…?)
そんなのイヤだ。
でも、逆らったらどうなる?
今より苦しくなるだけだ。
だったら…今からでも従った方が───
グイッ
「遅い!行くよ。」
先輩は、堅く握りしめられていたオレの手首をとり、強引に引っ張る。
急に引っ張られたため、オレの拳はゆるみ、手のひらがみえた。
その瞬間、先輩の手がオレの手首から手に渡り、手をつないだ状態でオレと先輩は走った。
…そうか。
オレは、今まで独りで。
ずっと、孤独で。
だから他人に合わせることで安心して。
そうして、一人じゃなにも決められなくなっていたのか。
だから、手が動かせなかった。
今までと同じようにしていれば、間違うことはないから。
(…ああ、誰かがこうやって、手を引いていてくれればよかったのかな。)
そうすれば、“誰かのヌクモリ”をずっと、この手に感じることができていたのだろうか。