さかのぼりクリスマス
「でも、な」
「はい?」
「今だから思うけど…たぶん、その400円って。コーヒーだけじゃなくて、その時間とか空間も、一緒に買ってるからなんだよなぁ」
シチューにつかったスプーンを止めたまま、先輩は続ける。
「今日だってな。落ち着いた雰囲気で、好きな子とじっくりクリスマスを味わう、みたいな。そういう時間を、一緒に買ってるってことなんだよなぁ。うん」
「…サラッとすごいこと言いますよね、先輩」
好きな子、とか。そういうこと。
先輩は、恥ずかしいことでも、照れずにまじめな顔で言ってのけてしまうから、困る。
告白してくれたときもそうだった。
難しい問題を解くときみたいなまじめな顔で、まっすぐわたしを見て言うから、うれしいより先におどろいたんだ。
夏、だったな。半袖だったもん。覚えてる。先輩、薄紫のポロシャツだった。
もう、冬なんだな。クリスマスだもんな。
お互いグラスのシャンパンがなくなって、先輩がワインを追加注文した。透明なピンクの液体。ロゼ。
「乾杯、する?シャンパンのとき、し忘れてた」
ふわっと笑いながら、先輩が言った。