Street Ball
目的地の駅間近だと、車掌が聞き取りづらい声で言っている。


瞼を開くと、白いフリルの付いたスカートを履いている女性と、その子供が目の前に座っていた。


不意に目が合うと、母親の方は俺がその空間に存在していないかのように、さっと視線を逸らす。


流し目でそれを確認し、俺はベンチシートから立ち上がって扉の前へと移動した。


他人からのそんな視線には慣れている。


今更気にする必要もない。


流れていく風景…フェンスから踏切の点滅している信号。


電車の通過を待っている子供達から、また点滅を繰り返している踏切の信号へ。


ガラス扉に映る俺の瞳には、力というものが全く籠もっていなかった。
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