一生もんの道化師
一生もんの道化師
『私は、女優よ…』


心の中で何度もそう唱え、自分自身に暗示をかける。


幼稚園の時のお遊戯会でシンデレラのかぼちゃの馬車のお馬さんの前足部分を担当して「ヒヒーン」と一声鳴く大役を仰せつかったのに、テンパり過ぎて「ニャヒーン」と発声してしまうという大失態を犯したりはしたけれども。


あれから約20年。

人生の荒波を乗り越え、様々な経験を積んで、すっかり大人の女性へと成長を遂げた私には、あの時とは比べ物にならないくらいの演技力が身に付いているハズ。

今日のこの、一世一代の晴れ舞台で、その成果を遺憾なく発揮してみせるわ!


私は意を決し、勢いよく目の前のドアを開け放つと、室内に突入した。


「あ、あっれー。たかとうさんまだいたんですかー」


あれだけ事前にシュミレーションを重ね、気合い充分で本番に挑んだにも関わらず、棒読みにも程があるセリフまわしに自分自身度肝を抜かれる。

思わずフリーズしてしまったその一瞬の間に、高藤さんは凝視していたディスプレイから顔を上げ、私に視線を向けて来た。


「あれ…。どうしたの?白石さん。とっくに帰ったかと思ってたけど」
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