一生もんの道化師
営業マンにありがちな、弁が立って賑やかで、如才なく周りに愛想を振りまくというタイプではないけれど、コツコツと丁寧に仕事を進める姿勢がむしろ取引先に好印象を与えるらしく、当然、それは営業成績にも結び付いている。


私より二年だけ先輩の高藤さんが役職に就くのはもう少し先の話だろうけど、仕事ぶりは申し分なく人間性も優れているという点から、おそらく同期の中では一番早く出世するだろうともっぱらの評判だった。


私もそう思う。

というか、ぜひともそうなって欲しい。


感情にムラがなく、誰に対しても穏やかに公平に接する事ができる高藤さんのような人にこそ、上に立って私達を引っ張って行ってもらいたいから。


って、彼を待ち受けているであろう輝かしい未来に思いを馳せてる場合じゃない。


「そ、それがですねぇ、ポケットティッシュを引き出しに入れる時に、一緒に掴んじゃってたみたいでー」


私は必死にアドリブを繰り出した。


「最初どこで落としたのかとパニクったんですけど、すぐにその事を思いついてここに戻って来たんですよ。無事に見つかってよかった~!」

「そうなんだ」
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