聖夜に降る奇跡


仕事を終えた僕は、時折、頬を刺すような冷たい風をコートの襟で避けながら、足早に帰路を辿る。

歩く街並みは、いつもよりも賑わいをもち、街にあるツリーには色とりどりのイルミネーションが施され、聞こえて来るのはクリスマスソング。

腕を組んで歩くカップル、ケーキを片手に持つ中年サラリーマン。
サンタクロースの衣装を身につけ、道行く人にチラシを配ったり声を掛ける偽物サンタ。

でも、それに立ち止まる人なんていなくて、当然、僕もその一人。
目の前に差し出されたチラシを受け取ろうともせずに、その前をすり抜けた。

前方には、お母さんと手を繋ぎ、もう片方の手には青色の風船が繋がれた糸を握っている4、5歳の男の子。
お母さんに、何かをおねだりしているような仕草が微笑ましくて、思わず目を止めた。

すると、その男の子はお母さんとの話に夢中になってしまったのだろう。

握っていた風船の糸は、男の子の手をするりと抜けて、風船は夜空へ上がっていく。

僕はその風船を見つめた。
そして、風船から目を逸らせば、見上げた先には澄んだ星空。


『離れていても、空は繋がっているから』


不意に、その言葉と、そう言った彼女が脳裏を過った。
同時に、彼女との記憶が鮮明に蘇る。

三年前に僕の前から消えてしまったメイさんとのこと……


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