雪だるマフラー
「……せい、先生?」
「あ、ごめんね。先生ボーッとしてた。」
少しホコリ臭い教室に、並べられた数台のエレクトーンと一台のピアノ。
最近エレクトーンを習う生徒は近年減っていっている代わりにピアノを習う生徒が増えてきた。
「先生、ここどうしても間違うんだよね。」
「そうだね、でもこの四小節半音ずつしか上がってないんだよ?指の番号無視して良いから弾きやすい指使って。後はもうハノンで指の運動だね。舞ちゃん最近サボってるの先生知ってるんだから。」
「アハハハ~。」
中学生の教え子とのやり取り。生意気な生徒もいれば素直な子もいる。
ビルの一角で教室を設け、全国的有名なピアノ教室の講師として運良く採用されてここで働いてもう八年。
このご時世、評判が全てで生徒と生徒の親の信頼が無ければ容赦なく切られてしまう。
必要以上に空気が読める性格なのか、相手の気分を読んで指導してきたお陰で口評判で生徒は途切れる所か増えていく一方だ。
「……今日はもうやりたくない。」
「そういう時も有るよ。あ、さっきお菓子貰ったんだ。内緒で食べない?」
一回のレッスンは30分、残りの15分はこういう風に雑談で終わらせることもある。
だけど一ヶ月のお月謝が中学生で1万6千円。その内の一回がこの内容って笑っちゃう。
「あ~ぁ、もう少ししたらパパ来ちゃう。」
「舞ちゃんのお父さん、迎えに来るの早いよね。迎えに来たらせめて最後くらいは一曲弾いてね。」
舞ちゃんのお父さんが私の彼なんて、それこそ笑っちゃうよね。