雪だるマフラー

ドア越しから感じる視線。舞ちゃんのお父さん、というか私の彼が教室を覗いている。


「もう~っ!!マジお父さん来るの早いんだけど!!真っ直ぐ帰るっつーの。」


彼が舞ちゃんを迎えに来るようになったのは思春期の娘が非行に走らないようにという理由から、彼が仕事を抜けて娘を自宅に送り届けた後にまた会社に戻るらしい。
一見幸せな家族像だが、会社に戻ったフリをして私の自宅に来ていること。
木曜日、舞ちゃんの後は生徒を入れないで直ぐに帰れること。

大人の嘘は子供の嘘と変わらない。

だけど子供と違って、嘘をついても顔と態度には出さない技を身につけている。


「先生、来週クリスマスだね!彼氏とお幸せに~!ありがとうございました~!」


私と彼は他人面で軽く会釈をするだけだが、数時間後には脱がなきゃわからないホクロの位置を見ている行為をしているんだ。

夢見る年齢じゃない代わりに、今目の前にあるこの現実を身体から実感することが至福の時。


隠すつもりはない。
彼をたまらなく愛している。

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