雪だるマフラー
マフラー
「ねぇ……私クリスマスプレゼントはマフラーが欲しい。」
「は?マフラー?気使わなくて良いよ。バッグとか財布とかさ。指輪が欲しいなら指輪だって。」
そんな予算無いくせにと一瞬思ったがその台詞は流して、ベッドに座っている彼に後ろから抱き締める。大きな背中、胸に手を回しても届かない。この背中で舞ちゃんを支えてきたんだろう。
「マフラーが良いの。あったかくて、フワフワしてて寒くならないマフラーが良いの。」
「想像つかないなぁ。寒いならコートとかは?」
「絶対マフラーが良いの。後ね……。」
「安物だから複数かよ、ハハ。」
抱き締める手をギュッと強くする。きっと私、少しだけ緊張していたと思う。
「クリスマス・イヴにマフラーをプレゼントとして抱えてる貴方に逢いたいの。」
くっついていたから気付いた。彼は一瞬だけ息が止まり、動揺を隠すようゆっくり息を吐いたのを肌越しに伝わる。そして直ぐに煙草に手を伸ばす。
ねぇ隠せてないよその動揺。そもそも返事をしない時点で焦っていますというアピールをしているのも気付いていないの?
愛してるの。
困らせるつもりなんて本当は微塵も思っていなかったの。
だけど怖いの。全てを捨てる勇気を持つ私に対して、貴方を失う勇気は何一つ兼ね備えていないの。
暖めて欲しかったの。あの雪ダルマみたいに守られたかったの。
貴方からのマフラーが欲しかったの。
特別な日に特別な時間を、私を一番にしたというクリスマスプレゼントが欲しかったの。
セブンスターの香りが部屋中と私に染み付いて怖いの。
貴方を想って貴方の為に泣いてる自分に酔っているのかもしれない。
だけど紛れもなく、初めて貴方と出会った日から今の今まで貴方を想わなかった日はなかったくらい。
「クリスマスとか……重視するものなのか?」
彼が宥めようと後ろにいる私に無理な体勢で頭を撫でようとしてくれる。
目の前だけの幸せならこれだけで充分なのもわかっている。
表に出られなくて良い、この部屋で良いの。
クリスマス・イヴに私にマフラーを巻いて欲しいの。