Snow mirage
Snow mirage

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冷たい風が正面から強く吹きつけてくる。

随分と長い時間寒空の下で待ちぼうけをくらった上、さらに容赦ない風からの攻撃を受けて私の身体は今にも凍えそうだった。

前を開けたままにしていたコートを、緩く巻いていたマフラーとともに両手で掻き寄せ、鼻まで顔を埋める。

そうすると僅かばかりだけれど寒さが和らいだ。

予定では今頃、お気に入りのカフェのソファ席で彼と肩を並べ、熱いコーヒーでも飲みながら年末年始の計画を立てているはずだった。

肩にさげた鞄に入った旅行会社のパンフレットは、今や何の価値も持たないただの紙切れだ。

吐いたため息は細長く白い霧になり、風に押し流されて虚しく消える。

コートの襟とマフラーに埋めた顔を上げると、目の前にコンビニが見えた。

足早にそこまで進み、鞄の中のもう価値のないパンフレットの束をゴミ箱にぶちまける。

鞄が軽くなると、私の心もほんの少しすっきりとした。

ついでにこれも……そう思って左の薬指に光るものに指をかけ、結局踏み止まる。
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