Snow mirage
「どこ行ってたの?」
私は彼に近づくと、質問に答える代わりに今買ってきたものを彼の首にふわりと巻いた。
ショーウィンドウに飾られているのを見て迷わず選んだそれは、彼の瞳の色とよく似た濃い緑色のマフラーだった。
「さっきから寒そうだから」
真ん丸な目を見開く彼への照れ隠しもあり、少し視線を逸らす。
彼はそんな私の傍でマフラーをぎゅっと握り締めると心底嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
そのときまた、チリンと鈴の鳴る音が微かに聴こえたような気がした。
耳を澄ませて確かめようとしていると、それを妨げるように彼のお腹の虫が盛大に鳴く。
「お腹空いてるの?」
恥ずかしそうにマフラーに鼻を埋める彼を見て、私は思いきり笑った。
「うちに来る?クリスマスケーキがあるの」
冷蔵庫を陣取るそれを思い浮かべながらそう言うと、彼が口角をあげて頷く。