Snow mirage

「ケーキ、大好き」

笑いながら私に飛びついてきた彼は、巻いてあげたマフラーを一度解くと私を巻き添えにして再びそれをくるくる巻いた。

一緒にマフラーの中に埋まった彼が、そっと私に身を寄せる。


「あったかい」

子どもみたいに甘えた声を出す彼の行動に、戸惑いつつも胸が高鳴る。

元カレと同じ名前の日本人離れした男の子。

ついさっき出会ったばかりで、ルイという名前しか知らないのに、その存在は私にとても温かかった。


***


家に帰る途中、コンビニで売れ残りのチキンとサラダ。それからシャンパンを買った。

ルイはそれらを全て平らげたあと、私の作ったケーキを本当に美味しそうに食べてくれた。

彼が「美味しい」とあまりに絶賛するから、私もひと口食べてみた。

味は悪くはなかったけど、それほど良くもなかった。

元カレは頑張って料理を作っても何の感想もくれない人で。このケーキについてもきっとノーコメントだっただろうから、ルイが食べてくれて却ってよかったのかもしれない。

ルイの賛辞の言葉は、私の心を充分に満たしてくれた。



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