Snow mirage


ふたりでシャンパンを開けてケーキを食べ終えても、ルイはまるで自然なことみたいに私の部屋にいて、立ち去ろうとはしなかった。


「帰らなくていいの?」

帰ると言われればきっと淋しいくせに、名前しか知らない男の子を家にあげたことが今更少し不安になり、そう訊ねてみる。

ルイはシャンパンに酔っているのか、とろんとした目で私を見ると口角をあげた。


「今日は大丈夫」

「今日は……」

ぼそりと呟いて俯くと、彼が近づいてきて私の顔を覗き込んできた。


「大丈夫?」

濃い緑色の瞳が心配そうに私を見つめる。

彼の言葉に、私は何故か自分でもよくわからないくらいひどく傷ついていた。

今日は大丈夫だけど、それ以降は違うんだ。

そう思うと激しい焦燥感に駆られ、彼の瞳に縋りつきたくなった。

徐に手を伸ばし、癖のない青みがかったグレイの髪に指先を絡ませる。

すると彼が、驚いたようにほんの少しだけ身をひいた。

< 18 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop