Snow mirage
ふたりでシャンパンを開けてケーキを食べ終えても、ルイはまるで自然なことみたいに私の部屋にいて、立ち去ろうとはしなかった。
「帰らなくていいの?」
帰ると言われればきっと淋しいくせに、名前しか知らない男の子を家にあげたことが今更少し不安になり、そう訊ねてみる。
ルイはシャンパンに酔っているのか、とろんとした目で私を見ると口角をあげた。
「今日は大丈夫」
「今日は……」
ぼそりと呟いて俯くと、彼が近づいてきて私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫?」
濃い緑色の瞳が心配そうに私を見つめる。
彼の言葉に、私は何故か自分でもよくわからないくらいひどく傷ついていた。
今日は大丈夫だけど、それ以降は違うんだ。
そう思うと激しい焦燥感に駆られ、彼の瞳に縋りつきたくなった。
徐に手を伸ばし、癖のない青みがかったグレイの髪に指先を絡ませる。
すると彼が、驚いたようにほんの少しだけ身をひいた。