Snow mirage
ⅲ
目を覚ました私は、昨日の夜の服装のままひとりでベッドに横たわっていた。
「ルイ」
数分ぼんやりした後に、すぐその存在を思い出して飛び上がる。
けれど彼が寝ていたはずの場所にその温もりはなく、部屋のどこにも彼の姿は見つけられなかった。
本当に、「今日」だけだったんだ。
テーブルの上には、まだ片付けられていないケーキの皿とシャンパングラスがふたつずつ。
「今日は」という限定されたその言葉の通り、彼は私の前から姿を消した。
泣きそうになりながら枕に顔を伏せたとき、頬に温かいものが触れて顔をあげる。
見るとそこには、昨日ルイに巻いてあげたマフラーが置かれていた。
これも置いて行ったんだ。
昨日の思い出は全てなかったことにしよう。そういうことなんだろう。
今度こそ本当に涙が込み上げてきて、ルイの瞳と同じ濃い緑色のマフラーを掴み上げる。