Snow mirage

「きみはあいつみたいにならないでね」

猫は尖った耳をピンと立てると、私を心配するかのようにほんの少し頭を傾けた。


「大丈夫。初めてってわけじゃないの。こういうの」

濃い緑色の瞳でじっと見上げる猫に諦めたような微笑みを返すと、私は左の薬指の銀の指輪を徐に外した。

指で摘み上げたそれを透かして見ると、その内側にうっすらと文字が浮かぶ。

そこに並んで刻んであるのは「LUI」と私の名前。

ずっと一緒だ、なんて。あれは破る為についた嘘だったのだろうか。

刻まれたふたつの名前をしばらく見つめたあと、私は指輪を猫の首輪に通した。

指輪が猫の金色の名札にぶつかり、無機質な金属音が鳴る。


「これ、もらってくれる?このまま家に付けて帰るのは辛いのに、捨てられないの」

猫の首輪に通した指輪に触れながら唇を歪める。

猫はまん丸な目をして私を見つめると、小さく身震いをして尖った耳をピクリと動かした。



< 5 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop