Snow mirage
「きみはあいつみたいにならないでね」
猫は尖った耳をピンと立てると、私を心配するかのようにほんの少し頭を傾けた。
「大丈夫。初めてってわけじゃないの。こういうの」
濃い緑色の瞳でじっと見上げる猫に諦めたような微笑みを返すと、私は左の薬指の銀の指輪を徐に外した。
指で摘み上げたそれを透かして見ると、その内側にうっすらと文字が浮かぶ。
そこに並んで刻んであるのは「LUI」と私の名前。
ずっと一緒だ、なんて。あれは破る為についた嘘だったのだろうか。
刻まれたふたつの名前をしばらく見つめたあと、私は指輪を猫の首輪に通した。
指輪が猫の金色の名札にぶつかり、無機質な金属音が鳴る。
「これ、もらってくれる?このまま家に付けて帰るのは辛いのに、捨てられないの」
猫の首輪に通した指輪に触れながら唇を歪める。
猫はまん丸な目をして私を見つめると、小さく身震いをして尖った耳をピクリと動かした。