Snow mirage
しばらく私を見つめて耳を動かしていた猫が不意にその動きを止める。
次の瞬間、猫は私の膝の上からトンと軽快に飛び降りた。
「どうしたの?」
猫につられて思わず立ち上がる。
けれど猫は私の声を無視してすたすたと歩き始めた。
「るー?」
猫を追いかけようとしたとき、どこかで小さな高い声がした。
「るー!」
その声がもう一度、今度ははっきりと私の耳に届いたとき、チリンと鈴の鳴る音がした。
見ると、猫は公園の入り口に向かって全速力で駆け出していて、その先には両腕を広げて屈む小さな女の子がいた。
「るー!」
彼女が歓声をあげるのと、猫が彼女の腕に飛び込むのとはほぼ同時で。愛おしげに猫を見つめる彼女の唇が「よかった」と震えるのがわかる。
あぁ、あの子が……
女の子に甘えるように体を摺り寄せている猫を見て、ほっとすると同時にどこか淋しい気持ちになった。