兄弟的同性愛事情
*戻らない距離
あれから1週間。
最初はあった身体の違和感と痛みはすっかり治って、ようやく歩くのに苦労しなくなった。
あの日から変わったことは、兄ちゃんと俺との距離。
身体を気づかってくれるような素振りはあるけど、直接聞いてくることはないし
あの日のことには触れたくないみたいだ。
俺が気にしてると思ってるのか
兄ちゃんにとっては、あの日のことは別になんでもないことだったのか。
どちらかわからないけど、たぶん、後者だ。
『ごめん、李桜…』
あのとき兄ちゃんが泣いていたのは、俺の見間違えだろう。
別れた訳でもないのに、セックスした後からはスキンシップがまったくない。
こんなことになるなら、セックスなんてしなきゃよかった。
蹴り飛ばして、部屋にとじ込もってしまえばよかった。
「はぁ…」
前を歩く兄ちゃんに気づかれないようにため息を吐いて、なんとなく公園の木を見る。
眩しいほどの緑に目が痛んで、思わずアスファルトに視線を戻した。
季節はまだ夏。
あと1週間たてば夏休みだ。
…兄ちゃんと付き合いはじめてから、まだ3ヶ月くらいしか経ってなかったんだ。
記念日とかお互い気にしないタイプだから気づかなかった。
たった3ヶ月で大きく変わってしまった。
今のところ、悪い方にだけ。
学校に行くためのなだらかな坂道を登りながら、モヤモヤと考えていて頭が痛くなった。
(暑いの、苦手…)
教室に着く頃にはすっかり体力をなくして、涼しい教室の冷たい机に突っ伏した。
ちょうどクーラーがいい感じにあたる席。
身体の熱が一気に冷やされて、少し寒くなった。
「このくらいの暑さでバテてるようじゃ、今日の体育死んじゃうよ?」
「っるせ。暑いの苦手なんだよ…」
「だらしないなー!もー」
ももは暑さにも寒さにも強そうだ。
梅雨の時期だけ元気がなくなるけど、その反動でか、今の時期は毎日テンションが高めだ。
入学式の時は、あんなに大人しそうだったのに…。
「なによ、その目!」
「べっつに~」
「もやしっ子のくせに!!」
「うるさい野生児!」
「?!誰が野生児よ!!」
くだらないやり取りはほぼ毎日のことだからか、クラスメートはなにも言わずに俺たちのやり取りを見ている。
「どっちもうるさいっちゅーねん!!」
ポコンッと丸めたプリントで、ライトが俺たちの頭を叩いた。