兄弟的同性愛事情
~李桜side~
家に帰ってから問い詰めようと考えていた。
あの、ハルヒという男のことについて説明してほしかったし
誤解を解きたかった。
家ならゆっくり話せる。
兄ちゃんと話し合ってもちゃんと理解しあえばすぐに元通りになって、きっとまた優しくキスをして抱き締めてくれる。
…なんて、確信もない甘い考えが悪かったんだろう。
リビングのテーブルに置いてある紙には
『ごめん。李堵』
とだけ書いてあった。
書くために使ったんだろう、俺が昔兄ちゃんにプレゼントしたボールペンが紙のとなりに置いてあった。
「なんだよ、これ…」
右手にクシャクシャに丸めた紙と、置いてあったボールペンを握りしめて床に投げつけた。
髪をかきむしるようにグチャグチャにする。
座り込んだ床は真っ黒で、どこまでも落ちていくような感覚に襲われる。
涙だけ、床に落ちていく。
「…ぅぐっ…ひっく…」
昔は泣くときは大声を出した。
そして何度も何度も何度も、周りの大人たちに煩いと言われるまで兄ちゃんを叫ぶように呼び続けた。
そうすれば、兄ちゃんは絶対に俺の頭を撫でて抱き締めてくれた。
なのに
今は大声で泣くことさえできない。
「にぃ、ちゃ…」
叫んだはずの声は掠れていて、自分でも聞き取れないほどだった。
頭を撫でて抱き締めてくれる人なんて、どこにもいなかった。
そこにあるのは、暗い部屋と兄ちゃんの匂いだけだった。