兄弟的同性愛事情
交差点の信号待ちでハルヒは何かを見たんだろう。
じゃなきゃ、あれだけ会わせようとしなかった李桜に自ら会いに行けなんて背中を押すはずがない。
通行人が変な目で俺達を見ている。
子供連れの母親が歩いて行くのを横目で見ていたら、目の前は公園だった。
そこに李桜の姿はなかった。
呼吸を整えながら何度も公園を見渡す。
あるのは濡れた遊具と、ボールと、木だけ。
空はもう暗くなっている。
そろそろ街灯もつき始める。
朝からずっと待っていたとしたら、もう10時間は経っているくらいだう。
仕方がない。
そう思うけれど、待っていてくれると期待していた分だけ衝撃が大きかった。
来なかった自分が悪い。
「李堵…」
左腕に冷えきったハルヒの手が触れる。
初めはこうなることを望んでいたはずだった。
また兄弟に戻れることがなくても、普通の恋愛をして結婚もしてくれればその方が李桜も幸せだと思う。
俺はこの恋は終わっていると思っていた。
無理矢理心を塗り替えてしまえば、あとはどうにでもなると。
結局は、そんなこと考えていただけで心はついてこなかった。
取り戻すチャンスはもう来ない。
これが最後で、これがこの恋の終わり。
涙は雨が全て流し落としてくれた。
帰ろうと俺の手を引くハルヒは、今までのどの瞬間よりも俺に優しくしてくれた。
それでも俺は、引いてくれる手に従えなかった。
何度目かの雷が落ちた。
その時、微かに声が聞こえた。
弾かれるように顔を上げる。
目の前のドーム状になっている遊具に駆け寄り、横に開いている4歳くらいの子供が一人立って入れるほどの穴から中を覗き込む。
真っ暗で何も見えない。
人の気配がするのだけは確認できた。
「李桜…?」
期待で声が震える。
中で何かが動く音がした。
次の瞬間、俺には受け止めきれない勢いで飛びついてきた。
「李堵ぉ…!!!」
首が締め付けられて呼吸ができないように、胸まで苦しくなる。
寒さか恐怖か、李桜の身体は小さく震えていた。
濡れた服が肌にへばりついて、何も着ていない時のようにお互いの体温を敏感に感じる。
自分より少し温かい李桜を、俺は夢中で抱きしめた。
少し離れたところから、ハルヒは背中の傷を指で触りながら俺達を見ていた。