兄弟的同性愛事情



しばらくしてから、ハルヒが遠慮がちに話し始めた。


「このままだと風邪を引くよ。家に帰ったほうがいい」


帰るという言葉に妙な重みを感じる。


もうハルヒの家に帰ることはないことを、ハルヒもわかっている。


李桜の顔が少し綻ぶ。


「またね、李堵」


李桜とは目を合わせにくいのか、俺にだけ微笑みかけて背を向けて歩き出した。


透けた白い服が背中を透かしてみせる。


声をかけたい。


歩いて帰るには遠すぎるし、この姿では電車を使うわけにも行かないだろう。


かといって、家に呼ぶのは李桜が…


頭の中で考えているうちに、ハルヒは公園から出る手前まで足を進めている。


「ハルヒ、さんッ」


声を上げたのは李桜だった。


ハルヒの足が止まる。


李桜の手が雨で滑りながらも強く俺の手を握ってきた。


「あの、僕らの家に行きましょう?そのままじゃ風邪、ひきます…から」


蚊の鳴くような声になってしまって、最後の方はハルヒには聞こえていなかったかもしれない。


それでも、震えながら出た声は伝えたいことだけは伝えていた。


李桜は俺の気持ちをくんでくれたんだろう。


その優しさが酷くありがたくて胸が熱くなった。


「でも…」


「ハルヒ、来いよ」


俺の声にハルヒは力なく笑って頷いた。


雨は小雨にはならず、まだ激しく降り続けていた。



< 121 / 126 >

この作品をシェア

pagetop