兄弟的同性愛事情
しばらくしてから、ハルヒが遠慮がちに話し始めた。
「このままだと風邪を引くよ。家に帰ったほうがいい」
帰るという言葉に妙な重みを感じる。
もうハルヒの家に帰ることはないことを、ハルヒもわかっている。
李桜の顔が少し綻ぶ。
「またね、李堵」
李桜とは目を合わせにくいのか、俺にだけ微笑みかけて背を向けて歩き出した。
透けた白い服が背中を透かしてみせる。
声をかけたい。
歩いて帰るには遠すぎるし、この姿では電車を使うわけにも行かないだろう。
かといって、家に呼ぶのは李桜が…
頭の中で考えているうちに、ハルヒは公園から出る手前まで足を進めている。
「ハルヒ、さんッ」
声を上げたのは李桜だった。
ハルヒの足が止まる。
李桜の手が雨で滑りながらも強く俺の手を握ってきた。
「あの、僕らの家に行きましょう?そのままじゃ風邪、ひきます…から」
蚊の鳴くような声になってしまって、最後の方はハルヒには聞こえていなかったかもしれない。
それでも、震えながら出た声は伝えたいことだけは伝えていた。
李桜は俺の気持ちをくんでくれたんだろう。
その優しさが酷くありがたくて胸が熱くなった。
「でも…」
「ハルヒ、来いよ」
俺の声にハルヒは力なく笑って頷いた。
雨は小雨にはならず、まだ激しく降り続けていた。