兄弟的同性愛事情
俺が李桜にしたことがどれ程最低な事か、誰よりも俺が一番わかっている。
俺が自分を責めている気持ちより、李桜が俺を責めている気持ちの方が強いに決まっている。
それでも俺達に笑顔を向けてくれる李桜は、今いったいどんな気持ちなのか、俺には理解できない。
「許してほしいのはそこだけじゃないんだ。李堵も見てて」
ハルヒは俺が自分の傷跡を見るのを確認してから、背中を引き千切った。
声が出なかった。
例えじゃない。本当に、引き千切った。
ハルヒの手には傷跡がゴミのように掴まれていて、背中には傷一つ残ってはいなかった。
手に掴んでいたものを床に落とす。
ハルヒはもう一度背中を撫でて俺達を見た。
「傷跡は特殊メイクだったんだ。…李堵にこれを見られたのは本当に偶然だったんだ。モデルの撮影の後、付けているのを忘れてそのまま帰っちゃって…」
「…嘘ついたのか?俺に」
「李堵が僕の幼馴染によく似てて、それで、どうしても側にいてほしくなったんだッ。…寂しかったんだ」
ハルヒの瞳から涙が溢れる。
混乱していた頭が冷静さを取り戻していく。
「全部、嘘だったんだな」
どおりで身に覚えが無いはずだ。
泣きながら喋られてもなんと言っているのかわからないが、謝っていることはなんとなくわかった。
怒りは湧いてこなかった。
ハルヒは悪い奴じゃないことくらい、何ヶ月か一緒に居たんだからわかる。
言い出したくても言い出せない気持ちも理解できる。
それに、ハルヒが俺に似ている幼馴染しかハルヒは見ていなかったんだろう。
代わりを見つけたくなる気持ちも、俺にはよくわかる。
赤くかぶれた背中を撫でると、ハルヒは余計泣き出して止まらなくなった。
李桜がハルヒが床に落とした物を握り締める。
そしてそれをハルヒの目の前に差し出して、ビリッと破いた。
「え…」
ハルヒが目を丸くする。
俺も唖然とした。
何も言わずに破り続けて、床にガムテープのカスのように散らばった。
最後に手に残った物を破ると、李桜はようやく俺達と目を合わせた。
そして笑った。
「うん、スッキリした。」
歯を見せて笑う李桜の顔は本当にスッキリしているように見える。
ハルヒはポカンと口を開けて李桜を凝視していた。
俺はハルヒの頭を撫でてやりながら李桜につられて笑った。