兄弟的同性愛事情
1日に14時間も寝るなんて、俺の人生ではこの日くらいだろう。
目が覚めた時には、外も部屋の中も真っ暗になっていた。
ゆっくりと体を起こしてみると
暗闇の中にぼんやりと人影が見えた。
もも…にしては、身長が高すぎる。
優斗さん?
…いや、勝手に入ってくるとは考えにくい。
「誰?」
俺が声をかけると影がこっちを見た。
顔はみえない。
けど、誰だかすぐにわかった。
雰囲気…というか、気配?
やっぱり、特別な存在なんだなって自覚する。
「なにしてんの?…兄ちゃん」
来ないで。
そう感情を込めて発した言葉は、自分でも驚くほどに低い声が出た。
こんなこと、言いたい訳じゃないのに…
ももの奴、余計なことをしてくれる…。
「出ていって」
「なんで帰ってこないんだ?」
…なに言ってんの、この人。
馬鹿なのか?
俺が見たことに気づいていないだけかもしれないけど。
無神経にもほどがある。
あぁ。兄ちゃんにとって俺は、ホントにただの遊びだったんだな。
勝手に納得した。
「何も言わずに帰ってこないで…俺がどれだけ心配したとおもっ「最低だね」
真っ黒でドロドロだ。
女みたい。
「は…?李桜?」
兄ちゃんのせいだ。
兄ちゃんが悪いんだよ?
だからさ、
これ以上近づいてこないでよ。
「…つき」
「李桜…?」
「にぃちゃんの…嘘つきっ…」
最初からそうだった。
俺もずっと好きだった。
そんな甘い言葉にのせられて、俺は舞い上がって
まんまと兄ちゃんの思惑通りになってしまったんだ。
初めから全部嘘なんだよ。
俺と兄ちゃんの距離なんて変わってなかったんだ。
…優斗さん、気持ちのズレは最初からあったんだよ。
頬を伝う水滴を拭き取ろうとした兄ちゃんの手を、力いっぱい叩いた。
「触らないで…」
来ないで。…来るなよ。
兄ちゃんのせいで俺はずっと泣いてるんだ。
「華恋とヤったんだろ…?」
ほら、
「ヤれれば誰でもよかったのかよ…」
どんどん
「やっぱり、俺のことなんてどーでもいいんだろ…?」
兄ちゃんのこと、好きだって気持ちが叫んでくるんだ。
名前を呼んで。
触れてよ。
これ以上近づけないくらいに。
足りないよ。
「俺を…捨てないでっ…」
変わりなんていないんだ。
俺には、兄ちゃんしかいないんだ。
華恋のことを恨むのだって
自分の性別を恨むのだって
全部全部、兄ちゃんが悪い。
もう嫌だ。
嫌いになればなるほど、好きになる。
ドロドロしていて、汚くて
もがき苦しんで
死にたくなるほど恋い焦がれる。
あぁ
俺の知ってる恋は
なんて汚いんだろう…。
「李桜」
違うんだ。
抱き締められて抱き締め返すのは、ただの情景反射なんだ。
…だから来てほしくなかったんだ。
こんなことで許してしまう自分が嫌だから。
突き飛ばせない自分が嫌だから。