White X'mas

男の人はいつの間にか立ち上がっていたようで、声は私の斜め上から聞こえた。


メリークリスマス……


私がクリスマスイブに事故で視力を失ってから、両親はこの言葉を口にしなくなっていた。

友人や、その他の知人も、理由を知ってしまえば、クリスマスの話題さえ口にしない。

けれど、久しぶりにかけられた言葉に戸惑う私に気づくはずもない男の人は、手袋をしたままの私の指先を導き、何かに触れさせた。

「ホワイトクリスマスって言います」

男の人が言ったのは、花の名前のようだった。

「あなたの犬……ジョイと同じクリーム色をした大ぶりのバラで、強い香りが特徴なんです」

確かに、このバラは嗅いだことのないほどくっきりとした、いい香りを放っている。

「いい香りですね」

私が言うと、男の人はそのバラを私の手に握らせた。

「どうぞ」
「いいんですか?」
「はい」

こんな風にして、花をもらうのは初めてのこと。

ラッピングも何もされていない、たった1本の花……


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