White X'mas
その人は、黒に包まれていた。
街路樹の緑が芽吹き始める春も、うだるように暑い夏の日も、そして、冷たい風の吹きすさぶ冬も。
その体に負った困難を感じさせない、しっかりとした足どり。
凛とした横顔に、ふいに浮かべる柔らかい笑顔。
店を開けるといつも彼女の姿を探す俺に気づいたのは、俺自身よりも、兄貴の方が先だった。
「今日はいないぞ」
掃除のために出た店先で俺の背中を後ろから肘でつき、イヒヒ、と兄貴が嫌みな笑い声をたてた。
「今朝はいつもより早い時間にお迎えが来て、行っちゃったよん♪」
気づいて以来、兄貴はずっとこんな感じで俺をからかい続けている。
………イヤな奴だ。
母から譲り受けたこの店”フラワーショップふたば”の共同経営者でもある兄貴は、なかなかのやり手で、店は順調に売上を伸ばしている。
そして、兄貴目当ての女性客は増える一方……
本当に………イヤな奴だ。
俺は、双子の兄の顔を眺めて溜め息を吐いた。
同じ顔でも、全く違う。
仕事はともかく、俺はモテる方ではないし、こんなふざけたしゃべり方はしないからな。