The moment


学校が見えてきた。
この学校はみんなから「北高(きたこう)」と呼ばれている。
「北星中央高校」
名前の由来は、北斗七星がどうのこうのって言ってた。

いつもより少しばかり遅れたけど、なんとか間に合った。


3年B組の教室に着くと、みんな自分の席を立って
わーわーと騒いでいた。

あ。3年なのにまだ部活をしてる理由をここで話しておこう。
軽音部と吹奏楽部は、12月の北高音楽祭が終わるまでは。引退できないことになっている。


「なつ、おはよ」

席に行くと、既に私の席には人がいた。
黒髪を肩より上でそろえ、
前髪のほんの一部を赤く染めている女の子。

バンド仲間の原田蒼(はらだ あおい)だ。
ベースやってて、憧れはレッチリのフリーだという。

「おはよう蒼。そこ私の席」

「はーいどうぞ。お座りくださいな」

丁寧に椅子をひいてくれる蒼の考えは、
大体わかっている。

このまま私が座ろうとすると、ぐっと深くひいて
私に尻餅をつかせる、という作戦だ。
いつものことだ。


「ん?早く座んなよ」

によによと笑っている。
本人は隠してるみたいだけど、バレてる。笑ってる。

私が蒼を叱ろうとしたとき、不意に背後から
バンド仲間の一人が
気をきかせたのか、それとも素なのか、話し掛けてきた。
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