The moment

バス停に着くと、私はスマホを手にした。
電話帳の良太兄の名前をタップする。

4回目のコールで通話状態になった。

「あ、もしもし良太兄?」

『良太はトイレでーす!おれ智也』

「ともくん!」

電話口から聞こえたのは、兄のとは違う
元気なともくんの声だった。
他に電話の向こうから亨くんの声がする。

『はーい、ともくんです(笑)良太が来るまで話そーや』


うん、もちろん。
そう言おうとしたとき、電話の向こうで、
ばすっと音がして、良太兄の「何してんねん」
という声が聞こえた。

『もしもしなつの?ともくん気にせんでな。
てかなんか言われんかった?』

「うん、大丈夫。ともくんは良太兄と違うから
悪いこととか言わないもん」

『何やと!』

少し怒ったように言うけどすぐ笑う。
良太兄の好きなとこのひとつ。


私は早速本題に入った。

「あのさ、住む件だけど。
お母さんいいって!」

『よかったやん!』

結局あのあと、お母さんは許してくれた。
日曜に行くと伝えると、良太兄は車を出して
荷物運びを手伝ってくれると言った。

『おとんの車借りるわ。日曜の10時過ぎでええんな?』

「うん!ありがと! 」

にっこり笑う。
声には出してないけど、良太兄も笑ってる気がした。

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