The moment
噛んだことでさらに顔が熱くなるのを感じた。
どうしよう…笑われるかな?
「あはは、噛んだ!なんか亨(とおる)みたい!」
初対面で噛んだ上に、笑われてしまった。
でも、これで好感度が上がったかな、と思って私も一緒に笑った。
「Toruさん、おそろいですね!」
「こんなんでおそろいでも嬉しくないわ(笑」
「そこは嬉しいって言っとけよ!」
ぱしっ、とTakaさんが叩くと、再び笑いが起きた。
賑やかなスタジオでは私達が来てから十分が経過していた。
「そんなら、ええ感じに緊張も解けてきたし、練習するか!」
「なつの、どっかその辺に座っとき。ドラム見たいんやろ」
良太兄の言葉に、はーい、と返事をしてからドラムの近くにパイプ椅子を置いて、座る。
「よーし、かっこええトコ見せたる!!」
Tomoyaさんが指先で、くるくるとスティックを回す。
その動作に返すように、私もにっこり頷いた。
「そんなら、ウォーミングアップも含めて一曲やるか」
Toruさんはウォーミングアップって言ってるけど、きっと私の為にって思って
一曲弾いてくれるんだと思う。
さっき会ったばかりなのに、歓迎ムードで嬉しい。
「なつのちゃん、なんかリクエストある?」
「えっと…じゃあ」
私はワンオクの中でも特に好きな一曲を、
リクエストした。
「Beginningいいですか?」
「お、ええの選んだなぁ。見所多いからしっかり見といてな」
演奏し始める前に、私は持参したスティックを出して、軽く腿を叩いた。
リズムは大体とれるから、私も頑張ろう!