今日のディナーは何にする?
 

「二宮さん」

「あっ、はいっ?」

「今日は店に来てくださって、本当に嬉しかったです。……クリスマスだし来てもらえないかもしれないと思っていたから」

「!」


……どういう意味?

“私”が来たのが嬉しかったってこと?

それって……

シンさんの言葉と表情に対して突然浮かんでしまった期待に、ふわっと高揚した気分になってしまう。

でもその期待を自分から口にして確かめることなんて出来るはずもなく、無難な相づちを口に出していた。


「……い、いえ」

「商売してると、こういうところがいいですよね。連絡しなくても来てもらえるし、クリスマスに一人で過ごさなくていいんだから」

「!」


誇らしそうに話すその表情に、“そういう意味か”と落ち込んでしまった。

別に“私”が来たからとかじゃなくて、私じゃなくてもただお客さんが来てくれることが嬉しいんだ。

シンさんが私に優しく接してくれるのは相馬軒にとって“大切な客の一人”だからであって、シンさんにとって特別だからではない。

私は他のお客さんと同じなんだ。

……そんなの、1年前からわかっていることなのに、私は今更何を期待しているんだろう。

バカみたい。

……でも良かった。さっきの期待を口に出さなくて。

大恥をかいた上、ここに来れなくなるところだった。

 
< 13 / 20 >

この作品をシェア

pagetop