今日のディナーは何にする?
 

ふぅと小さく息をついて気を取り直し、普段から思っていたことを素直に伝える。


「……シンさんのお仕事って、本当に素敵なお仕事ですよね。私のような客を幸せにしてくれて、自分も幸せな気持ちになれるなんて。本当に尊敬します」

「……ありがとうございます。自分でも素晴らしい仕事だと思います」

「……はい」

「……」


私とシンさんとの間に、今までは生まれたことのない沈黙が生まれた。

でもそれは決して重いものではなく、すごく心地よくて、安心できて、温かい空間だ。

何だろう、この感じ……。

さっき浮かんでしまった期待は完全な勘違いだったけど、ずっとこうやってシンさんのそばにいられたらいいな……。

それが客と店主という関係のままでもいいから。

そう思えば、自然と言葉が出ていた。


「……私、ここが大好きです」

「……それは嬉しいな。ありがとうございます」

「いえ……本当に、すごく、好きなんです」


シンさんのことをじっと見つめて、そう伝えた。

……大好きなんだ。

シンさんの居る、温かいこの場所が。

そして……シンさんのことが。

高望みはしないから。

でもほんの少しだけ、贅沢なことを言わせて欲しい。

 
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