君と歩いていく道
一人がいいと思うのに、何故かそればかり考えてしまう。独りでいれば、誰にも関わらずに済むのに。寂しいという感情も、無くなるはずなのに。


「なんで。」


消えないばかりか、思いはどんどん強くなる。

涙は頬と枕を濡らして、拭うことも出来ない生暖かいものが気持ち悪かった。
ノック音がして大月が往診に来ても、涙は止まることがない。

「こんにちは。気分はあまりよくなさそうですね。」

彼のことは見たことがあるけれども、思い出せなかった。
何もかもが夢うつつで、昨日のことも一昨日のことも思い出せない。

最後に部屋を出たのはいつだろう。腕を切ったのはいつだったっけ。ここは病院らしいのはわかるのだけど。
あいまいになってしまった記憶のせいで、思い出すのはさらに億劫になる。


「だれ。」

「担当の大月です。」


大月は本当に根気良くなったものだと、自分でも思う。患者を相手にすれば、こうやって名前を覚えてもらえないことなど、しょっちゅうだった。

「鏑木さんから電話がありましてね。楽団の方には連絡を入れておいたから問題はないと伝えといてくれと。・・・真崎さん?」

「・・・っく・・・。」

「真崎さん?!」

大月の言葉を聞いた途端、真崎は苦しげに呻いて震えだした。

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