君と歩いていく道
「玲!!」
酷く慌てた、プロテニスプレーヤー・紺野の姿が部屋に飛び込んでくる。
「ノックぐらいしてください。患者が驚きます。」
「・・・すまない。真崎玲がここにいると聞いたのだが。」
「ええ。ここです。」
苦しい息の下、顔をあげることも出来ない真崎を認めると、紺野は近づいた。
よほど慌てていたのか、病室に居た大月の姿に驚いた様子を一瞬見せたが、それ以上の表情は見られない。まるで、何が起こったか知っているかのように、真崎に寄り添っている。
「玲、しっかりしろ。」
仏頂面で有名な紺野が、親しげに名前を呼んだうえ、慣れた様子で声をかけている。
彼女が昨日待っていたのは彼だったのか。
まさか紺野が飛び込んでくるとはと、大月のほうが驚いた。
2人とも有名人なので、どこかでつながりがあったのかもしれないが。
真崎は苦しげに咳きこみ、体を曲げている。口にタオルを当てて肺に入る酸素の量を減らしてやってはいるが、一向に収まる気配はない。
紺野が傍にいることはおろか、入ってきたことさえ知らないかもしれない。
「真崎さん、水は飲めますか?」
せき込み方から、彼女は気管支が弱いのだろう。
大月が水差しを口まで持っていってやると、少量の水が真崎の喉を潤した。
少し、発作が治まったようだ。
「大丈夫ですよ。ゆっくり息を吐いて。」
だんだん落ち着いてきた呼吸に合わせて、大月は口のタオルを外してやる。