君と歩いていく道
過呼吸を放っておくと、酸素が体に入りすぎて頭が回る。落ち着いてきたら、酸素を吸わせてやらなければ、苦しくなる。

「疲れましたね。さあ、目を閉じて。少し眠りましょう。」

なんでもないミネラルウォーターは、真崎を落ち着いた眠りに落としてくれた。
本当をいうと、このままカウンセリングに入りたい。だが、原因の分からない発作だ。今は落ち着かせることが先だろう。

眠った真崎を看護師に任せ、大月は紺野を外に連れ出した。
プロのテニスプレイヤーが目の前に居る興奮を隠し、簡単に自分の素姓を名乗った後、すぐに話を切り替える。


「紺野さん、この症状は初めてですか?」


何か知っているようだったし、親しいようでもあった。


「・・・いや、何度かある。」

「いつからかわかりますか?」


医師として、大月は質問を重ねる。
紺野は思い出すように言葉を紡いでいく。

初めての発作は三ヶ月ほど前。コンサートホールで取材から逃れていたところで起こったらしい。
その頃にはもう紺野と知り合っていたことになる。

真崎が交響楽団に入ったのは2年ほど前で、押谷と別れたのは1年半前。

「真崎さんとは、どういうご関係ですか?」

紺野の瞳は〝そんなことまで聞くのか?〟と言っていたが、必要なことだった。真崎は何も語らないし、親も来ない。

「ええ。貴方以外、誰も来ないもので。」
「・・・そうか。」

紺野をにらんだ目は、視線を逸らして悲しそうに前を見つめる。

「彼女は俺の恋人だ。」

ああ、やはり。
そうは思ったものの、紺野が付いていながら自殺を考えたとは、どうも納得がいかなかった。

< 14 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop