君と歩いていく道
いっそ、普通の女性の格好をすればいい。普段カメラの前に出るときは男装なのだから、かつらをかぶれば本当にばれないかもしれない。
本当の対策は、退院できる状態まで持っていってからにするが。


「目が覚めたとき、彼女の傍にいてあげてください。泊まれるように、手配しておきますから。」

「すまないが、頼む。」


頭を下げた紺野に、驚いてしまう。
よほど真崎のことを大事にしているのだろう。プロになるほどのテニスプレーヤーが、恋人一人のためにトレーニングまで出ずにいるのだ。

堅物だと思っていたのに、不謹慎だとは思うが笑いたくなる。

本当に笑うほど失礼なことはしないが、そこまで大事に思われて何故真崎は死を望んだのだろう。
本心は、やはり本人にしか分からない。

今に至る過程を紺野は話してくれたが、本当の闇は真崎の心の中にしかない。
紺野自身もそれをわかっており、だからこそ傍にいたいのだろう。

誰かの切ない関係を見守りたいと思ったのは、初めてかもしれない。

大月は病室を後にしてナースセンターへ向かう。
紺野の宿泊許可を、主治医がとるのは別に不自然ではないだろうと思って。


「それなら、押谷先生が先ほど取られましたよ。」

「押谷君が?そうですか。ありがとうございます。」


彼なりの出来ることだったのだろう。

それにしても、意外に不器用な男だ。もっとスマートな男だと思っていた。
大月は笑いをこらえながら、押谷のもとへコーヒーでも持っていこうと歩きだした。


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