君と歩いていく道
夢現
「もっと、楽譜通りに、周りと合わせることを基本としてくれ!」
真崎の音を求めていたはずの世界が、音をたてて崩れていく。
誰もが彼女の音ではなく、楽譜の音を必要としていたのだ。
楽譜を読むことが苦手なので、いつも耳で覚えていた真崎は、いつの間にか演奏曲の楽譜を読むことしかできなくなっていった。
読むといっても、耳で覚えて楽譜と照らし合わせていくだけの作業。
自分の音の追及は許されない。
それからしばらく経った頃、単独ミニコンサートの時だ。初めてことの重大さに気がついたのは。
コメンテーターは在り来たりのことしか聞いてこないし、その場にいた誰もが気付かない些細な音の変化。
楽譜通りの音楽になってしまったことに気付いたのは鏑木だった。
やはり長年師事してきた教え子の音の変化は、すぐにわかるのだろう。
鏑木に指摘された真崎は、真っ青になった。
「もう一度、自分の音について考え直せ。」
そう言われて見つめなおそうにも、本当は取り返しのつかないところまで来ていた。
自分の音を忘れ、次のコンサートでもやはり楽譜通りにしか弾けなかった。
今度は真崎にもはっきりわかった。