君と歩いていく道
真崎は大人しく紺野の空気に呑まれている。
発作が起こるような様子もなく、今はとても落ち着いた気分だった。


「よく、聞いてほしい。」

「うん。」


何を言われるのだろう。

期待と不安が入り交じり、少しだけ複雑な気分になる。
紺野はいつだって自分と向き合っている時は真剣だったし、今だって何か重要なことを言いたいのかもしれない。

もしかしたら、やっぱり別れが近いのか。

そんな不安が真崎の脳裏をかすめていく。
もちろん紺野は、不安定な彼女にいつまでも不安そうな顔をさせておくわけにはいかないと重々承知だったのだが、言いだせないのは自分も不安だからだ。
だが、ここまで来て言わない訳にはいかないことも分かっている。


「退院したら、一緒にアメリカへ行こう。」


すぐに声が出なかったのは、拒絶からではない。
すぐに涙が出たのは、悲しいからではない。

今まで二人ともマスコミに公表するのを避けて、一度も堂々と歩いたことはない。ましてや紺野の国外大会など、行けるわけもなかったし、紺野も呼ばなかった。

互いが傷つかない方法は、それしかなかった。

マスコミに知られれば、あることないこと書かれるだろう。
隠さなければ二人とも自分の仕事どころではなかったかもしれない。
それは真崎もよくわかっていたし、言いだしたのは自分からだった。だからその関係を不服とも思わなかった。

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