君と歩いていく道
冷たい手を温めてやりたくても一向に温まらない。

冬場は冷え症がひどくて、指が動いてくれないのだと苦笑した彼女は、戻ってくるのだろうか。
あの無邪気な笑顔は、また見られる日が来るのだろうか。
こんなにも不安になったのは、初めてかもしれない。

眠れない夜が、いつの間にか明けた。


「・・・光博?」

「ここにいる。」


安心したように力を抜いて、真崎は長い息を吐いた。

「早く、退院したい。」

鉄格子のはめてある窓から外はほとんど見えない。

「ならば、早く治すことだ。」

「うん。」

頷いてじっと手を見つめ、それから空で指を動かす。
まるで鍵盤の上を踊るような手つきに、音が聞こえたような気がした。


「ねえ、変だよね。今は、ピアノに触りたい。」

「そうか。」

「前みたいに弾けないだろうけどね。」


ピアノは毎日の練習がものをいう。
これほど一日やらなかっただけで指が動かなくなる楽器は、そうそうないだろう。

真崎の手は止まらない。
やがて回診の時間になり、ノック音の後に大月が入ってきた。
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