君と歩いていく道
そして、恐る恐る手を置く。


「玲。」


出した音はゆっくりだったし、曲でもなかった。
それでも、真崎は弾き続ける。

だんだんと早くなる指の動きは、いつしか簡単な曲になっていった。
それはピアノの初歩で習うものだったし、なんの特徴もない音色だったが、それでもとても意味のある曲のように思える。

弾き終わった真崎が一番驚いているようで、二人は彼女に拍手をした。


「あ・・・。」

「では、明日退院です。」

「え?」


弾けても弾けなくても数日のうちに退院させる予定だったのだが、これだけ弾ければ問題はないだろう。
死にたいと言い出すことも、楽団から離して自分の音を追及させれば出てこない。


「今、水瀬が来ている。明日一緒に自家用ジェットでアメリカに飛ぶことになった。」

「え?信吾が?光博・・・行っちゃうの?」

「お前も行くんだ。」


何を言っているんだと、付け足して。
水瀬がそこまでしてくれるとは思っていなかったが、彼がやると言うなら任せた方がいいだろう。

長年のライバルは、親友になっていた。

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