君と歩いていく道
たまたま、水瀬の家のパーティーで彼女の両親が演奏をした時、一緒に演奏していたのが彼女だ。

『下手だな。』

自己紹介をされた後に二人で遊んで来いと言われ、開口一番水瀬は言い放った。
泣きそうなのに、真崎は泣かずにじっと耐えていたのをはっきりと覚えている。


『俺の方がうまく弾く。』


確かに同年代の子供よりはうまいのだろうが、真崎は楽譜も鍵盤も見ていないので、強弱がめちゃくちゃだと思ったのだ。
小さい頃からクラシックに慣れ親しんできた水瀬の耳に、それはとても耳障りに思えた。

じっと下を向いてばかりで、根暗で面白味の無い奴だと放っておこうと思ったら、真崎は初めてまともにしゃべった。


『がくふ、よめないの。』


震える声でたどたどしく話す彼女にうざったさを覚えていたが、泣かないのに感心もした。
普通の女なら泣き出すところだと幼心に感じていたのだが、真崎は涙を眼に一杯溜めていながらも泣き出すことはなかった。
大した根性の奴だと、か細い少女に好奇心を持った。

『楽譜も読めねーのにピアノ弾くんじゃねーよ。』

『ごめんなさい。どうしても、おんぷのながさが、わから、なくて。』

リズム音痴は本当にいるのだと、水瀬は驚いた。
そのあと真崎の手を引いて、ピアノの置いてあるところまで連れて行って散々教授したのに、彼女はついにわからないまま今にいたっている。

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