君と歩いていく道
鏑木はいたって無表情で、真崎の様子を見ている。

「容体はどうだろうか。」

長年、押谷や大月の母校の音楽教師であり、またはピアノ講師として、学生を指導をしてきた鏑木は冷静だった。

「ええ。命は取り留めました。後は精神的なものです。」
「自殺未遂だと聞いたが。」

親よりも先に駆けつけた鏑木だ。真崎のことを大事に思っているのが伝わってくる。
無表情の中にも悲しみを伴っていることを、大月は気づいていた。

「はい。傷の量、場所から見て、ですが。」

鏑木は大月に移していた視線を再び真崎に戻し、〝そうか〟と呟いた。


「何かご存知ですか。」

「すまないが、私にも分からない。もうずいぶん、電話でのやり取りしかしていない。」

「そうですか。」


椅子を立った鏑木は優しく真崎の頬をなでると、厳しい顔で大月に振り返る。


「彼女をよろしく頼む。」


そう言って扉の向こうへ消えた鏑木を、大月は一礼で見送った。

真崎に視線を戻す。

見れば見るほど、病んでいるように見えた。
痩せこけたという表現しか当てはまらない、頬とくぼんだ目。痛々しいまでに白い肌。いつか雑誌で見た写真では長かった髪も、めちゃくちゃに切られて見る影もない。

外見のことをカルテに書き込みながら、大月はひたすら彼女が眼を覚ますのを待った。
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