君と歩いていく道
人通りの少ない通りではあるが、常連客の多いカフェは、今日も一日をのんびりと過ごす老人が多かった。
マスターの雰囲気がそうさせているのかもしれない。

少し早めに来て調律をし始めた真崎に、かかる声は少なくなかった。
誰もが久しぶりに弾かれるピアノに期待をしていたし、若い女性がいることも要因の一つかもしれない。
自分の祖父や祖母ほど年の離れている人ばかりなので、孫のように見ているのかもしれないと思うと少し嬉しかった。


「じゃあ、もうすぐランチに入るから、よろしく頼むよ。」

「はい。頑張ります。」


頼まれた通り、真崎は時間になってピアノの前に座る。
誰もが微笑ましく見守っていたのだが、真剣に見ているものが四人だけいた。


「水瀬、お前もか。」

「ああ。ったく、心配ばっかかけやがって・・・。」

「全くだ。」


そういう紺野も水瀬も、表情は明るい。

一年前にピアノが弾けなくなっていらい閉じこもっていた真崎が、社会復帰しようというのだから、少し感慨深いものもあるのだろう。


「始まるようだ。」


確かめるような音が響き、ざわついていた店内も静まり返る。
いつも聴いているピアノの音も、場所が変わればなんとなく違うように思えた。


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