君と歩いていく道
どれぐらい経っただろうか。
見周りをしていた看護師から、目が覚めそうだと連絡を受けた大月は、真崎の病室に戻った。

彼女の目はゆっくりと開き、やがて大月を視界にとらえる。

「目が、覚めましたか?僕は、担当の大月です。」

努めて穏やかに話しかけるが、真崎の目は虚ろなまま。大月を〝映している〟だけで、見てはいないような気がした。
それでも話しかけなければ信用は得られないので、当たり障りのないことを聞いていく。


「気分はどうですか?」

「・・・生きてたんだ。」


自嘲気味な笑い方をしながら、真崎はようやく一言目を発した。


「ええ。貴女は生きています。」

「死ねばよかったのに。」

「貴女を助けたいという人間は、この世にごまんといますから。」

「それは、私の虚像だ。」


何があったというのだろう。
かすれた声の中に、苦渋と悲しみが溢れている。
黙って聞いている大月に声を立てて笑いかける、彼女の瞳からは涙が流れていた。


「誰も、私のことなんて見てない。」


はっきりと言い切った真崎は、まだ狂ったように笑っている。

だからと言って呆れはしない。何があったのかを聞いて、解決に導くのが大月の役目だ。
〝誰も〟とは、具体的に誰のことを指すのだろうか。
鏑木だって真崎を本当に心配していたし、押谷だって動揺して処置に支障があったと噂されるほどだ。

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