君と歩いていく道

予感

マスターには本当に悪いと思ったが、真崎は二日間の礼を言ってバイトを終えた。

給料を払うと言ってくれたのに対して、本当に申し訳ないと言って彼女は受け取らず、また来た時に何か飲ませてもらう約束をして店を出た。
たった二日間だったが、彼女のファンは少なくない。
近所の老人たちがとても惜しんでくれたのが、真崎には本当にうれしく感じて、また来る事を固く心に誓った。

帰り道。
本屋に寄ってマンガを買い、紺野の記事が載っている雑誌も買った。

音楽系の雑誌を見ないのは本能的なものかもしれない。家族の誰かが載っていれば、だいだい自分の批判をしているのだ。見たくなくて当然である。

「玲さん。」

聞き覚えのある声に振り向いた真崎の前には、テニスバッグを背負った伊吹が立っていた。

「伊吹、こんにちは。」

「ッス。」

紺野を通して知り合ったとはいえ、二人きりで話したことはない。
それでも伊吹の方から声をかけてきたのだから、嫌われているということはないようで少し安心した。

「もう練習終わったんだ？」

いつもより少し早いような時間なので、驚いている。
伊吹が帰宅途中ならば、紺野ももう家に帰ってきているかもしれない。

「今日は調整で。明日、少し練習試合するんス。」

「そうなんだ。頑張ってね。」

真崎の笑顔はとてもやわらかく、伊吹は思わず赤面した。
< 64 / 99 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop