君と歩いていく道
別れた恋人のことを出すのはタブーな気がして、押谷のことは言わないことにする。
大月が彼の同級生だと、彼女は知らないはずだ。

カメラの前でもテレビの中でも、いつだって明るい笑顔を見せていたのに。

大月だって、全てが本物の笑顔でないことぐらいわかっている。

だがコンクール演奏の後の、晴れやかな笑顔も虚像だと言っているようで、それが不思議だった。


「鏑木さんが、面会に来られてましたよ。」


盛大に溜め息を吐きたい気分なのだが、我慢して。
真崎の涙は止まらずに、鏑木という名前にひそかな反応を示した。


「先生しか来なかったでしょ。」

「ずっと貴女の傍にいたいと思っても、いられない人もいるんです。」


それは暗に押谷のことを指したのだが、真崎には通じなかったようだ。
鏑木しか来なかったことに、とても寂しそうな顔をしている。

確かに彼女の両親は来ていない。公式のプロフィールでも、兄弟はいないと言っていた。

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