君と歩いていく道
その時はいつも、少しでも自分のピアノで疲れた心が安らいでくれることを、祈りながら弾く。


「あ、ちょっとドリンク持ってくるよ。」

「ああ、頼む。」


敷地内なので、油断していたのかもしれない。

夜になりかけて黄昏時に染まる家の中へと、真崎は一人で走りだした。
キッチンは少し奥。
ストックしていたお茶が、まだ冷蔵庫の中で冷えていたはずだ。こちらではなかなか飲めない黒豆茶だから、喜んでくれる人もいるだろう。
そう思って、ボトルを両手に外へ戻ろうとドアを開けた。

瞬間。

フラッシュが目の前で光ったのを、真崎の目は見逃さなかった。


「うそ・・・。」


少し呆然としてしまう。

引っ越してきた当初はつきまとったマスコミも、この頃は放っておいてくれたし、パパラッチもなりを潜めていたのに、今頃、何故。

やはり自分が外でピアノを弾いたのがいけなかったのだろうと思い、真崎は浅はかな自分にとても後悔した。
それでも取り戻せない時間は、ハッキリとフラッシュの主の写真に写っているのだろう。


「・・・どう、しよう。」


どうすることもできなければ、一人で悩んでも仕方がない。
自分がここにいるせいで、紺野に迷惑がかかってしまうかもしれないと思うと、真崎の胸は締め付けられるように痛んだ。
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