君と歩いていく道
発端は間違いなく、真崎が人前に出たことだと、水瀬は話した。
インターネットで簡単に、真崎がカフェでピアノを弾いている動画が見られたので、回復してきたのを嗅ぎつけたのだろう。

長年家族ぐるみの付き合いがあり、真崎のスポンサーでもある水瀬は、彼女の母親をよく知っている。
気の強い、押しの強い人物で、神経質だと言った。

父親は当たりは柔らかいものの、音楽家としては妥協せず、ピアニストの娘を認められずにいるそうだ。

真崎の、個性の強過ぎるピアノは、オーケストラには向かない。
ソロで活動してこそ、その真価が発揮される。
それを楽団になぞ入ったがために、馬鹿な娘は自分の音楽を潰したのだと、公言してはばからない。
集団に入れば、多少なりとも合わせるという事が必要になってくる。

確かにそうだろう。
真崎のピアノは、幼い頃から父親が間近で見てきた。

しかし、言い方というものがある。

傷付いた娘の復帰を願うどころか、フォローさえしない。
見舞いにももちろん来なかったし、そんな発言ばかりされるので、真崎は両親と距離をとっていた。

そうするように、水瀬がすすめた。

認められようと必死にレッスンをする真崎に、もう両親から離れ、自分の足で歩け。
そのためのスポンサーには自分がなるし、援助は惜しまない。

幼い頃のように、楽しそうに自分のピアノを弾く姿が、もう一度見たかった。
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