君と歩いていく道
蔑視
ホテルの一室に入れられて、真崎は呆然と窓の外を見ていた。
忙しく流れる車のライト。
歩いていく人。
そのどちらも、目に留まることなく通りすぎていく。
何故こんなことになってしまったのか、理解したくない。
来週にはオーストラリアに行く予定だったのに、何故自分はこんな所にいるんだろう。
真崎は夜景を見つめながら、窓にへばりつくように座り込んだ。
涙はもう、流れてこない。
今まで散々ほったらかしにしていたのに、何で今頃。
頭の中に蘇った昼間からの母親との攻防が、今は遠い昔のように思えた。
『同棲しているなんて、はしたない!真崎の家名に泥を塗るような真似は許しません!』
今さら、同棲の事を持ち出すのか。
ずっと、ほったらかしだったくせに・・・。
『貴方は真崎家の一人娘です。しかるべき婚約をするために、帰りますよ。』
しかるべき婚約と言いながらも、どうせ母親の勝手に決めた話だ。
どうせ、あの無関心な父親は、関与していない。
ずっとずっと、ほったらかしだったくせに・・・!
『スポーツ選手だなんて、もっての外です。今すぐに別れなさい!』
何故、スポーツ選手ということを持ち出すのか。
誰がどんな職業であっても、良い顔はしないだろうに。
母の思い通りの相手でなければ。
「今更、どうして・・・。」
やはり、涙は出てこない。
呟いた声は静かな部屋に消えて、真崎は一晩眠れずにその場で過ごした。