君と歩いていく道
控えめに、インターホンが呼んでいる。

時計の秒針を刻む音だけを聞いていて、いつのまにか寝ていたらしい。
どのくらい時間が過ぎたのか分からないが、空はまだ曇っていて薄暗かった。

いつも来てくれる家政婦だろうか。
彼女は引きこもっている真崎の事を、見捨てることなく世話をしてくれる。
単なる仕事としてではなく、一人の人間として。

ピアニストとして精力的に活動していた頃は、寝食を忘れるほどピアノを弾くことに熱中していて、健康面を心配した周りの友人達が、家政婦を雇うことをすすめた。
当然部屋の掃除など滅多にしなかったし、冷蔵庫の中はほとんど空。
ピアノの回り以外は、うっすらほこりが積もっていた。

家政婦は実家にも常時いたので、抵抗なく雇うことを決め、今に至る。
紺野よりも長い付き合いになるだろうか。

玄関のドアを開けて、彼女の顔を見たら少しは落ち着くだろうか。
このふさいだ気分ももしかしたら変わるかもしれない。
そんな期待をしながら、玄関にのそのそと向かう。

あのとき。
インターホンの画面を、どうして確認しなかったのだろうかと、真崎は今でも後悔していた。

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