君と歩いていく道
母が納得してくれるような答えをひねり出せないまま黙っていると、わざとらしい大きな溜め息が聞こえた。

きっと何を言っても納得はしない。
こんな簡単なことを、忘れていたなんて。
このままソファーに大笑いしながら寝転がってしまいたい衝動を、なんとか抑える。

馬鹿馬鹿しい。

大人になってまで媚びへつらう相手が、自分を産んだ母親とは。

「どうせ弾けないのなら、退団なさい。」

「出来るものなら、とっくに。」

「貴女は自分が必要とされているとでも思っているの?男の格好などして・・・恥を知りなさい。」

「別に・・・舞台用のドレスが動きづらいだけなのに、周りはそうは見てくれない。」

こんなに口答えしてくるとは思っていなかったのだろう。
苛立ちが玲にも手に取るように分かる。
自分自身の素直な気持ちさえ、聞き入れてもらえないのは慣れているから苦ではない。
いつも面倒に思って、口に出さなかっただけだ。

「つかれたんです。すべてに。ただそれだけです。」

本心から、そう思う。
これで自分の事は諦めてくれるだろうか、と。


< 89 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop