君には聴こえる
「寒い中、足を止めて聴いてくださって、ありがとうございます」
一息で言い切って、彼が深く頭を下げた。
それを合図に、拍手が沸き起こる。ここに居る人の数以上の人がら拍手を贈っているのではないかと思うほど大きな音。
まだ、彼は顔を上げない。
胸の奥がざわめくのは、拍手のせいか。それとも、彼の言葉が自分に向けられたとのだと思ってしまったからか……
ようやく、彼が顔を上げた。
逸らすと思っていた彼の視線は、何故か再び私へと。
「お馴染みの方、初めて聴いてくださった方も、お会いできて嬉しいです」
街灯の下、彼が微笑んだ。
私を見たまま。
恥ずかしくて、胸が苦しくて。
どうしていいか、わからない。
慌てて顔を伏せて、逃げ出していた。改札口を目指して。